本文です

[日本の守り]第2部・そこにある脅威(8)新防衛大綱(連載)とは

 ◆「変化」見据えた装備へ

 二月上旬。小雪が舞う中、ドイツ東部の広大な高原演習場で、”奇妙な”実戦訓練が行われた。

 重装備を誇るドイツ連邦軍第十三機甲師団の戦車部隊の将兵約五十人が、トラック四台に分乗し、廃屋に乗り付けた。軍靴を脱いで屋内に入ると、アラブ住民にふんした同僚に、丁寧な口調で質問を始めた。

 「この先の道も、安全に進めますか」

 「インシャラー(神のおぼしめしのままじゃ)」

 三月末のアフガニスタン派遣を前に、地元住民から円滑に情報収集する訓練だった。戦車部隊の砲声のない”戸別訪問”演習は、欧州の軍隊が直面する「劇的な変化」を象徴していた。

 冷戦時に旧ソ連の脅威の最前線にいたドイツは昨年、軍の主任務を国土防衛から海外展開へと大転換した。今年一月には、陸海空三軍を、地域紛争に対応する「介入軍」「安定化軍」「支援軍」という機能別の三つの統合軍に再編する大胆な構想を打ち出した。

     ■□ 

 向かい合う脅威の変化に伴い、改革を迫られているのは、自衛隊も同じだ。

 弾道ミサイル防衛システムの導入を閣議決定した昨年十二月十九日。政府は同時に、自衛隊の装備体系の抜本的見直しを打ち出した。削減対象として、陸上自衛隊の「戦車、火砲」、海上自衛隊の「護衛艦固定翼哨戒機」、航空自衛隊の「作戦用航空機」を明示した。これが、今年中に策定する新しい「防衛計画の大綱」の基本線となる。

 日本の防衛費は年五兆円弱で、このうち戦車、戦闘機など正面装備費は約八千億円。総額八千億―一兆円のミサイル防衛を数年間で導入するには、他の装備の大幅削減が避けられない。

 閣議決定前には、陸海空三自衛隊側、いわゆる「制服組」と、防衛庁事務方の「背広組」との激しい攻防があった。

 制服組「削減する装備の名称を盛り込むと、今後の議論を縛ることになる」

 背広組「防衛力整備の基本方針を転換したことを今、明示する必要がある」

 背広組が半ば強引に押し切った背景には、防衛予算の抑制・削減を目指す小泉首相の意向があった。

 昨年十月二十六日、相模湾で行われた海上自衛隊の観艦式。首相は護衛艦「しらね」の艦上で、居並ぶ防衛庁幹部に向かって、「(制服組の)組織に任せては決まらない。(制服組の要求は)半分にすれば、ちょうどいい」とハッパをかけていたのだ。

     □■ 

 三月上旬、北海道恵庭市の戦車用の射撃訓練場。

 「状況開始!」。命令と同時に、陸自第七師団所属の九〇式戦車三両が、ごう音を上げて疾走を開始。約三百―五百メートル先の人間型の標的計四基に機銃掃射を繰り返した。戦車同士の戦闘が終了した後の敵兵士の掃討を想定した演習だ。

 「『時代遅れ』と言われようが、最後に戦場を制圧するのは戦車しかない」

 師団関係者は強調する。

 第七師団(北海道千歳市)は、陸自の全戦車約千両のうち約二百両が配備された唯一の機甲師団だ。冷戦期、旧ソ連軍による北海道への大規模上陸侵攻を迎え撃つ役割を担った。

 冷戦後の今、他国による日本への上陸侵攻が近い将来に起きる可能性は極めて低い。防衛庁は、弾道ミサイル、テロなど「新たな脅威」への対応を優先する方針だ。新たな防衛大綱では、戦車の定数を六百両台に削減する方向で調整している。

 陸自には、「将来、本土侵攻の脅威が再び高まる可能性もある」と戦車の大幅削減に反発が強い。だが、ある幹部は率直に語る。

 「我々も長い間、今の戦車の数が本当に必要か、と疑問に思っていた。テロやゲリラの対処に戦車や火砲はあまり役に立たない」

 限られた防衛予算の中で、「今、そこにある様々な脅威」に有効に対応できる装備と部隊編成をどう実現するか。新防衛大綱の最大の課題となる。(おわり)

    ◇

 この連載は、林路郎、鳥山忠志、五十嵐文、日高徹生、吉山一輝(以上、政治部)、貞広貴志(国際部)、山本広海、伊藤史彦(以上、社会部)、奥西義和(写真部)、河田卓司(ソウル)、若山樹一郎(台北)、伊藤俊行(ワシントン)、新居益(イスラマバード)が担当しました。

 (英文はあすのデイリー・ヨミウリに掲載します)

 

 〈固定翼哨戒機〉回転翼の哨戒ヘリコプターに対する哨戒用飛行機の呼称。海自のP3Cを指す。かつては対潜哨戒機と称したが、対潜水艦作戦以外に、水上艦の監視なども行うため、今は単に哨戒機と呼ぶ。防衛庁は現在、P3Cの後継機を開発している。

共通のキーワードを含む商品
Supported by 楽天ウェブサービス


 YOMIURI ONLINE  直近2週間のYOMIURI ONLINE速報記事より

共通のキーワードを含むYOMIURI ONLINE記事はありません