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[検察官]第2部最前線は今(9)「丁寧さ」と「更生」特徴(連載)とは◆米国人の眼―「自白強要の恐れ」も 日本の検察制度を分析し、2002年のアメリカ犯罪学会などの賞を受けた本がある。「アメリカ人のみた日本の検察制度」(邦題)。著者のハワイ大学准教授デイビッド・ジョンソン(44)の考察には、3度目の来日となった1992年の年末から1年2か月、神戸地検で検察官に密着し、つぶさに観察した経験が生かされている。 ジョンソンの印象に残っているのは、マツタケ11個を盗んだ森林法違反の男のケース。「つまらない事件だ」と思ったが、検事はどう処分すべきか悩んでいた。「侵入盗より軽いが、万引きよりは重い」。マツタケ産地に近い他地検に問い合わせたりして、やっと類似の事件を見つけた。担当した検事にも話を聞き、出した結論は、罰金5万円を求める略式起訴だった。 もう一つは覚せい剤使用事件。尿検査で反応が出たのに、男は容疑を否認した。同種の前科があり、「自白がなくても有罪」とジョンソンは思ったが、検事は取り調べを続け、遠方から男の親族を呼んで罪を認めるよう説得させた。拘置期限の直前、男は自白した。 ◎ 横浜市で日本語を学んでいた来日2度目の88年、「代用監獄は冤罪(えんざい)の温床」と訴える弁護士の話を聞いた。当時は、日本の経済的成功が注目され、米国の研究者には刑事司法も「人道的」という評価があった。どちらが真の姿か。疑問が芽生えた。 ジョンソンは、日本の検察の長所を「丁寧さ」にみる。米国では地検のトップが選挙で選ばれ、個々の検察官の独立性も高い。日本ではマツタケ泥棒のような事件でも、公平さが損なわれないよう検討を重ねる。ジョンソンは「検察官によって処罰が異なる米国より公平だ」と評価する。 覚せい剤事件で、証拠は十分あるのに調べを続けて自白させた点にも、日本の検察の特徴は表れている。 ジョンソンが94〜95年に日本の検察官235人を対象にした調査(複数回答)では、93%が仕事の目標に「犯罪者を反省させること」を選んだ。米・シアトルでの調査ではわずかに9%だった。 反面、ジョンソンは自白強要の恐れも指摘する。米国では取り調べに弁護士の立ち会いが認められているが、認められない日本では「捜査官と容疑者の力関係には落差がある」からだ。 検事と拘置所を訪れた時、取調室から大声が響いていた。検事は「自白を取ろうとしているんだ」と説明した。別の覚せい剤事件で、検事が調書を取り直す度に供述の矛盾がなくなっていくのを見た。ジョンソンは「捜査官に都合の良い『作文調書』が作られる危険がある」と感じたという。 ◎ 丁寧な捜査と慎重な処分、詳細な事実認定のための審理は、「精密司法」と呼ばれる。 東京高検から東大法科大学院教授に派遣されている古江頼隆(54)は、「刑事手続きは身柄の拘束を伴い、当事者に不利益を負わせる。精密に捜査し、証拠が十分あるものに限って起訴するのは当然だ」と話す。 一方、日本弁護士連合会刑事法制委員会委員長の神洋明(56)は、「日本の検察官は、確実に有罪にするため調書を完璧(かんぺき)に作る。検察の立証を崩すのは大変難しい」と言う。99〜03年の1審の有罪率は99・9%。「調書の中には、厳しい調べで検察官の言いなりに取られたものもある」と感じている。 ただ、今後、裁判員制度が導入されれば、精密司法が変わる可能性はある。裁判員は、専門的な訓練を受けてきた職業裁判官とは異なる視点で、事実を認定するからだ。 ジョンソンは、99年以降も度々来日し、犯罪者の矯正問題などの研究を続けている。裁判員制度には「米国でも陪審の判断は不安定とされ、始まらないと分からない」と慎重な見方だが、今後の検察については「捜査の透明性を高めると同時に、犯罪者の更生という理想と公平さを重視する姿勢は持ち続けてほしい」と注文をつけた。(敬称略)(おわり) ◇ 連載や検察官に関するご意見、感想などをお寄せ下さい。あて先は左ページ下段にあります。
〈精密司法〉 日本では、捜査機関が綿密な捜査で証拠を固め、有罪の確信を得たものだけ起訴する。公判でも供述調書などの証拠書類を多用し、判決で詳細に事実を認定する。有罪率が高くなる反面、捜査段階での取り調べが長くなることや、法廷での審理が形がい化する「調書裁判」になりやすいとの批判もある。
写真=日本の検察制度を語るデイビッド・ジョンソン氏(ハワイ大で)
2005年7月12日(Tue)
全国 朝刊
38頁(2社) 05段 1788文字
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